50年ローンでマンションを買うという異常

ふと、電車の中づり広告を見ると、分譲マンションの広告があった。

「3380万円~/月々6万円から」という数字が書いてある。

ぎょっとした。返済に50年近くかかる。金利も含めると、50年ローンということなのだろう。なんでそんなものが成り立つのだろうか??

不思議なローンの仕組み

この不思議なローンは、住宅金融支援機構が始めた「フラット50」という仕組みを利用して提供される。

フラット50は最長50年の固定金利で借りられる住宅ローンで、長期優良住宅に認定された住宅を取得する場合に利用できる。

借り入れの条件は、申し込み時に満44歳未満で、完済時に満80歳未満というもの。親子リレー返済の場合は、親が満44歳以上でも借りられる。従来あったフラット35の返済期間拡大版である。

80歳まで借金を返さなければならない50年ものローンがどうして成り立つのだろうか?実は、50年もの長期間のローンを民間の銀行が責任をもって貸すというわけではないのである。

貸し倒れになってしまったら、銀行は回収不能な不良債権の山を抱えてしまう。固定金利の契約を結んだあとで金利が上昇してしまったり、通貨価値が減少すれば、膨大な含み損が積みあがることになる。銀行は、そんな間抜けな貸し付けは自力では行わない。

昨今の住宅市場で間抜けな貸し付けのリスクを負っているのは、銀行ではなく納税者である。住宅金融支援機構という国の出先機関が、勝手に納税者にリスクを負わせて公庫から金を貸してしまえ、という話になっているからだ。

銀行の利権

リスクに見合った金利を設定しないと銀行の事業は成り立たない。

銀行業にとって低い金利で貸し付けることは、他の商売でいえば商品を安売りすることに相当する。事業性を損なうほどの安売りをしたら、銀行はつぶれてしまう。事業として成り立たないような間抜けなローン契約はあり得ない。

ところが、そんな安売りも政府がやるならできてしまう。事業に失敗しても納税者に転嫁してしまえばよいからだ。

競合する商品を国に安売りされる銀行は本来なら反対するはずだ。だが、なぜ反対しないだろうか?銀行は、国の制度にぶら下がれば抱き合わせで追加のローン契約を得ることができるからである。

銀行は、まず自分たちが貸し付けた分を回収すればよい、最後にグズグズになった債務者から取り立てるのは住宅金融支援機構、つまり、国である。仮に取り立てに失敗したとしても、銀行にとっては知ったことではない。

実は政府は、銀行に不当に値下げした商品と抱き合わせてローンを独占的に売る権利をプレゼントしているのである。後になって、不良債権を抱えるのは納税者だ。そのときには、不良債権は雪だるまのようにふくらんでしまっているだろう。

建設業界の利権

このローンは「長期優良住宅に認定された住宅を取得する場合」だけ適用される。つまり、国が認定した基準を満たす場合だけ優遇される制度だ。

基準を満たせば長期間にわたって資産価値が維持される、それが真の見込みならほっといても消費者は喜んで買うだろう。そして、銀行もその担保性を認めて進んで金を貸すだろう。ライバルに敗けないように、急いで貸せる相手を見つけようとするかもしれない。本当に50年たって売却できるだけの資産価値が残っている見込みがあるなら、そういう話になる。

だが、おそらくそんな価値は残っていない。価格は結局、市場が決まるものだ。本来なら売れるはずのないもの、市場で自然に売れない性質のもの、値段が付かないものは、取引の当事者がその価値を認めていないのである。50年後、価値が残らないと皆が踏んでいるから、銀行は自分では貸さないし、国がはさまらないとカネが動かない。だから、政治に頼っているのである。

責任を売り手は背負わない、制度を作った役人も背負わない。納税者が背負っている。いずれにしろ、銀行も土建屋も役人も、懐は痛まない。だから、無責任にカネを貸し、無責任に不動産を売り抜けることができる。そういう仕組みだ。

他人にリスクを背負わせてモノを作らせ、売るということは、本質的に無責任なのだ。

家を買う人の利権

最後にそのツケを支払うのは、誰だろうか?

割高な不動産を長期ローンによって買わされる人だろうか?本来なら、資産価値が市場で正しく評価されていない不動産を購入するのは無謀だ。無謀な投資の責任は、購入者が背負うことになる。

だが、フラット50から借り入れできるなら、借りないほうが損である。なぜなら、抱えているリスクにまったく相応しくない低い金利で資金調達をすることができるからだ。

借りた人は借りない人より得する仕組みになっている。だから、消費者は乱暴にカネを借りるのである。政府が固定金利を約束している以上、政府が強制的にインフレを作りさえすれば借金は実質的に目減りする。

政府が自らインフレ誘導して通貨価値を目減りするなら、政府が率先して借金の残額を減らしてくれるようなものだ。

フラット50は、住宅購入者に対する壮大なバラマキなのである。

誰が負担するのか

他人の責任でリスクを取れるから乱暴な投資をするようになる、そうして生じる無責任をモラルハザードという。

いま日本で大量の無謀な不動産投資が行われている。上昇した住宅価格は、やがて需要が減少し、崩壊するだろう。だが、そのリスクを銀行は負っていない。住宅購入者も背負っていない。建設事業者は儲かる。

当事者は誰もリスクを背負わず、無謀な融資が行われ、無謀な投資が行われている。コストを負担するのは、フラット50を使わない、家なんて買わないで生きる、その他多くの納税者である。

政府のインフレ誘導によって物価の上昇に苦しむ人達がいる。生活コストがどんどん上昇していくからだ。

政府による通貨価値の希釈の打撃は、弱者を襲う。

 

インフレ税の仕組み

 

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