インフレ税の仕組み

「インフレ税」という言葉がある。端的に言えば、「政府による人工的なインフレは、税金と同じである」という話だ。

政府が財源を確保しようとするとき、徴税や社会保険料の徴収、国債の発行と並んで、通貨の発行という手段がある。政府は、輪転機を回して紙幣を印刷することができてしまうのである。

この魔法のような方法を、誰も損しないかのように信じたくなるかもしれない。だが通貨発行量の増加には、人々が持っていた通貨の価値が希釈されて目減りするという効果がある。実は、法定通貨制度を悪用することによって、政府が人々の財布に手を入れなくても財産を奪うことができてしまっているだけなのである。

人々から経済的自由を奪う政府

政府に財産を取り上げられて、勝手にどんどん浪費されてしまったら、どんなに一生懸命生産性を高めても、どんなに節約して財産を蓄えても、残念な話になる。

政府は強制的に財産を奪い、強制的にサービスを供給する。そのほうが効率が良いなら良いが、そのほうが人々をすり減らすことが明らかになってもなお、政府はさらに人々を働かせ、財産を吐き出させようとする。

人々が本来なら自由な取引を通じて手に入るはずのサービスを手に入れることができなくなってしまう。よりよい代替の選択肢があっても決められた製品を押し売りされてしまうから選択できない。

政府が税を使って供給するサービスに、民間企業が挑むことは難しい。民間企業は、支払いを強制することができないからだ。したがって、そもそも選択肢が生じない。このような状態が作られれば、質の低いサービスが温存され、割高な製品を買うことが強制されてしまう。

どんなに物事を複雑にしたとしても、強制的に買わされるものが、望んで買うものより得であるということはあり得ない。国がサービスを供給すれば、一方で欲しいものを買う経済的自由が失われていく。政府の押し売りは、人々の暮らしを悪化させるのである。

原因は、政府の強制力の行使である。

経済的自由の喪失

 

政府の通貨発行の影響は、実質的に税金と同じ

「政府の債務がいくら膨張したとしても、政府が通貨を発行すればよい。」そんなことを言う人がいる。

けれどもそれは、「政府の債務がいくら膨張したとしても、政府が強制的に国民の財産を奪えばよい。(だから、政府のサービスが割高だったり質が低くても、政府の言いなりになりなさい、負担は無視しなさい)」と言うのとまったく同じである。

政府が追加の通貨を発行すれば、市場に出回るお金の総量が増える。紙幣(紙切れ)が増えたとしても生産量(市場に出回る商品)が増えるわけではないから、貨幣の価値が希釈されて、物価が上昇する。

政府は、なんら生産することなく、ただ紙切れを印刷しているだけだ。だから、もちろん豊かさが作り出されるはずはない。ただ貨幣価値が目減りして、価格が歪むだけである。

政府によって人工的なインフレが作られると、たしかに借金をしている政府は債務が減少する。一方で、人々の預貯金や現金は価値が減ってしまう。雇用契約などは現金でなされているはずだから、実質所得も減ってしまう。これがインフレ税、つまり政府の貨幣希釈による富の収奪だ。

自由な通貨と統制された通貨

政府は、なぜ通貨発行による私的財産の略奪ができてしまうのだろうか?

物々交換の媒介として便利だから選択されるのが、本来の通貨だ。市場で自由な交換が行われる中で、交換比率の安定性が高く、貯蔵しやすい金や銀といった貴金属が、市場で選択され、通貨としての地位を得た。

通貨は米や卵でもよい。だが腐ってしまったり、季節によって価値が変動しやすいので都合が悪い。金や銀であれば総量は突然増えたりしないし、その希少性によって少量でも価値を担保できたことから、都合が良かったのである。本来の通貨とは、交換を媒介するのに便利な「商品」だった。

かつて、政府の紙幣は、金や銀で担保されたものだった(金本位制)。だが、現行の管理通貨制度は、政府が、法律で通貨を決定し、法定通貨による取引を強制することによって保たれている。そのため、市場で自由に選択されて生じる自由な通貨とは本質的に性質が異なる。

法定通貨の価値は政府が握っており、将来の徴税権を前提に価格が維持されている。政府は、実際には価値のない紙切れで取引を行うことを強制し、政府が国民の私有財産を奪い取れる能力によって紙幣の価値を「保証」している。

普通に考えれば、誰かの都合でいつでも発行できるような紙切れが通貨として市場から選ばれることはあり得ない。政府は、金銀で取引する自由を制限し、法定通貨を取引に用いることを法律によって強制し、法定通貨で決済することを拒否できないように、法律で定めている(強制通用力)ことによって本来なら選ばれないはずの価値のあるもので担保されない偽札の流通を押し通しているのである。

金本位制であれば政府は金を掘ってこない限り通貨発行量を増やすことができなかった。だが、現代の管理通貨制度であれば果てしなく政府が通貨を発行できてしまう。いくらでも人々から労働の成果や財産を奪い取ることができてしまうのである。

政府による押し売りと権力

民間であれば押し売りと呼ばれることを、合法的に行うのが政府である。

政府は、徴税などの強制的な方法で個人から財産を奪い去り、国家権力が使途を決めてしまうのである。政府のサービスが要らないと言っても、負担が免じられることはない。

私たちが民間企業と取引するとき、製品やサービスの品質に満足しない場合には、製品やサービスを買わない選択をすることができる。ところが政府のサービスは、拒否することができない。

政府が人々から財産を強制的に集める方法はいくつかある。たとえば、徴税や、社会保険料の徴収は代表的なものである。それと並んで、通貨発行という手段がある。

いずれの経路によるとしても、人々の所得が減り、権力の取り分が増えるという性質は同じだ。そして、一応はそれらを財源にサービスが供給される。政府の押し売りに対する強制的な支払いとして税は奪われるのである。

気づかれにくいインフレ税

通貨発行や国債の発行によって政府の財政をまかなう「魔法のような方法」とは、魔法でもなんでもない、単に価値の裏付けのない偽札の使用を政府の強制力によって強要しているに過ぎない。

政府による強制は、本来なら受け入れられないはずの非合理を受け入れさせる力がある。

もし仮に、法定通貨の代わりに金銀で取引や蓄財を行うことを個人が選択するとしても、人々がインフレ税の影響を免れることはできない。政府による価値希釈によって通貨の価値が失われたとしても、政府は「金銀の値上によって利益を得た」とみなして課税する。

消費税が増えたとか所得税が増えたと言う話になれば、人々は気づきやすい。だが、政府がどれだけ通貨を印刷したといって、気にする人はほとんどいない。政府に自らの財産を奪われていても、人々は気づきにくい。

政府は勝手に輪転機を回して紙幣を印刷しさえすれば、簡単に人々の財産を希釈してしまうことができ、多くの人に気づかれないまま、実質的に課税することができてしまうのである。

通貨が金や銀などの価値変動の少ない商品によって担保されていた金本位制においては、通貨発行には歯止めがあった。法定通貨制度の下では、財政規律は大きく無視されがちになった。より多くの非合理を人々は飲まされ、政府の泥沼に引きずり込まれてしまう。

デフレ悪という嘘

さかんに宣伝されたデフレ悪の信仰によって、インフレは肯定的に受け止められがちだ。けれども、生産性が向上して価格が下がることは、悪いことだろうか?

デフレーション(物価下落)は、経済が生産性を向上すれば、当然に体験するものである。人々は、これまでに稼いだ財産で、より安上がりに生きていくことができるようになる。インフレになってしまえば、それまでにどんなに働いていたとしてもさらに多くを生産しなければ生きていけなくなってしまう。インフレは政府を喜ばせる場、人々を苦しめる。

インフレ税は、人々から経済的自由を奪う。人々が政府の供給するサービスしか手に入れることが出来なくなってしまうという意味で税金と同じである。あらゆる増税と同様に、インフレ税は市場に悪影響をもたらす。物価は上昇するとしても、人々の財産は目減りしていく一方である。政府が権力によって個人の財産が奪うことが、人々の生活を苦しくするのである。

弱者ほど深刻な影響を受けるインフレ税

インフレ税のインパクトは、現金資産しか持たない中間層や、現金収入を当てにしている低所得者ほど多く、土地や貴金属などの現物資産を持つ富裕層ほど少ない。政府が財政悪化を口実に通貨を増刷したり、国債を発行すれば、直接の打撃を受けるのは、所得の少ない人々だ。

また、通貨価値が薄まったことに市場が気づき、十分に価格が下落するまでの間に政府から補助を受けた政府に近しい者たちは商品やサービスと通貨を交換してしまう。幾度かの取引を経て現金が人々に行きわたると、人々は最初に考えていたよりも棄損された価値しか残されていないことに気づくことになる。

インフレ税は公平な「税」であるという人もいる。だが、実際にインフレ税が生じる原因を考えれば、それが縁故資本主義における強者を有利にする不公平なものであることが分かる。政府が通貨を刷って、補助金や公共事業という形で政策的にばらまいた場合、もっとも最初にそれを受け取るものほど有利になるからだ。

結局、法定通貨制に基づくインフレ税は、権力と結びついた者と政府の癒着をエスカレートさせ、政府の権力そのものを膨張させる。そして、政府と縁故の強いものが強化され、そうでない者が搾取される縁故資本主義が発達していくのである。

 

 

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