インフレ税の仕組み

「インフレ税」という言葉がある。端的に言えば、「政府による人工的なインフレは、税金と同じである」という話だ。

正しいインフレとおかしなインフレ

世の中にはデフレを悪であるかのような宣伝がなされ、「マイルドなインフレ」とか「悪性のインフレ」なる怪しい言葉もまことしやかに語られる。しかし、実のところこれらの言葉はまやかしだ。

私たちは貨幣などの保存性の高い資産によって、余剰の利益を保存し、必要なときにそれを取り出すことができる。

正しいインフレというものがあるとすれば、災害などで実際に物資が不足した際に値上がりすることである。必要な物の供給が足りないから値上がりし、値上がりが生産の動機を導く。そして供給が需要に追いつくにしたがって、物価は下がっていく。こうして、需要と供給は自然に調整される。

おかしなインフレは、市場にある通貨を政府が意図的に増やすことによって、人工的に作られたインフレである。政府や中央銀行が輪転機を回して流通する紙幣を増やしてしまえば、私たちの持つ貨幣の価値が薄まってしまう。これは、徴税と同じく、政府による財産の収奪である。

政府はなんで破綻しないのか?

多くの人は、政府は破綻しないと考えがちだ。

一部の人は、政府には徴税権があるから政府が破綻しないと説明しようと企てる。

もちろん、徴税権を前提とするなら、ちょっとやそっとでは破綻しない。でも、それはこういうことだ。

政府は将来の徴税を担保に負債を膨らませることができる。政府が乱暴に強制力を行使しさえすれば国民の財産を奪い取って回収できる。そう期待されている限り、政府は「金を借りる」ことができるのである。

多くの人は、国家の破綻を恐れて財産を差し出すことを容認するかもしれない、それに逆らう人がいたら、大勢でよってたかってその人を非国民だと罵ればいい。税金を払わないやつは悪い奴だと大騒ぎするのだ。そうやって、財産を供出させることができるだろう、といっているのである。

国民にとって、国家の徴税権によって国家は破綻しないという説明は、なにも嬉しくない。自分たちの財産を国家に奪われてしまうことを前提とされてしまっているからだ。

「政府の債務がいくら膨張したとしても政府が強制的に国民の財産を奪えばよい。(だから、政府のサービスが割高だったり質が低くても、政府の言いなりになりなさい、負担は無視しなさい)」、そんなこと言われても、全然うれしくないのである。

政府の通貨発行には、税金と同じ効果がある

「政府の債務がいくら膨張したとしても、政府が通貨を発行すればよい。」という人もいる。政府はいくらでも通貨を発行できるから破綻しないというのだ。

たしかに、この魔法のような方法を、誰も損しないかのように信じたくなるかもしれない。けれどもそれは、まったくの間違いだ。政府が通過を発行すればするほど、私たちの手元にある貨幣の価値は希釈されていく。

私たちからは、通貨の価値が薄められたことによって、物価が上昇したようにしか見えない。一方、政府は新たに印刷したお金で公務員の給料を払ったり、公共事業の費用を支払うのだ。知らない間に、徴税されてしまっているのである。このような国による財産収奪の方法は、インフレ税と呼ばれている。

なるほど、政府が財源を確保しようとするとき、徴税や社会保険料の徴収、国債の発行と並んで、通貨の発行という手段がある。政府は、輪転機を回して紙幣を印刷することができる。けれども、そのいずれの手段であっても、国民の財産が奪い取られることに違いはない。

政府による通貨価値の希釈の仕組み

政府がお金を「作る」のに、政府が財産を奪っていることになるとは、信じにくいかもしれない。けれども、通貨発行量の増加には、人々が持っていた通貨の価値が希釈されて目減りするという効果があることはちょっと考えれば明らかだ。

政府が追加の通貨を発行すれば、市場に出回るお金の総量が増える。紙幣(紙切れ)が増えたとしても生産量(市場に出回る商品)が増えるわけではないから、貨幣の価値が希釈されて、物価が上昇する。

政府はなんら生産することなく、ただ紙切れを印刷しているだけだ。だから、もちろん豊かさが作り出されるはずはない。ただ、通貨の価値を薄めているのである。

世の中には借金をしている人もいる。けれども、政府ほど大きな借金をしている人はそんなにいないだろう。政府によって人工的なインフレが作られると、大きな借金をしている政府の債務が減少する。一方で、人々の預貯金や現金は価値が減ってしまう。

デフレは悪くない

さかんに宣伝されたデフレ悪の信仰によって、インフレは肯定的に受け止められがちだ。

けれども、あらゆる増税と同様に、インフレ税は市場に悪影響をもたらす。物価は上昇するとしても、人々の財産は目減りしていく一方である。政府が権力によって個人の財産が奪うことが、人々の生活を苦しくする。

デフレ(物価下落)は、経済が生産性を向上すれば、当然に体験するものである。人々は、これまでに稼いだ財産で、より安上がりに生きていくことができるようになる。インフレになってしまえば、それまでにどんなに働いていたとしてもさらに多くを生産しなければ生きていけなくなってしまう。

インフレは政府を喜ばせ、人々を苦しめる。政府の計画に従うことを人々に強制し、人々を支配する。

弱者ほど深刻な影響を受けるインフレ税

政府が財政悪化を口実に通貨を増刷したり、国債を発行すれば、直接の打撃を受けるのは、所得の少ない人々だ。インフレ税の打撃は、現金資産しか持たない中間層や、現金収入を当てにしている低所得者ほど多く、土地や貴金属などの現物資産を持つ富裕層ほど少ない。

インフレ税は公平な「税」であるという人もいる。だが、実際に通貨を刷った政府が誰にそれを支払うのかを考えれば、インフレ税も縁故資本主義における強者を有利にする不公平なものであることは明らかである。政府が通貨を刷って、補助金や公共事業という形で政策的にばらまいた場合、もっとも最初にそれを受け取るものほど有利になる。

通貨価値が薄まったことに市場が気づき、十分に価格が下落するまでの間に政府から補助を受けた政府に近しい者たちは商品やサービスと通貨を交換してしまう。幾度かの取引を経て現金が人々に行きわたる過程で、政府と縁故のある者たちほど中抜きする機会を得る。

一方、政府と遠い者は物価の上昇を経験しながら最後まで現金の分配を受け取る機会がない。

結局、法定通貨制に基づくインフレ税は、権力と結びついた者と政府の癒着をエスカレートさせ、政府の権力そのものを膨張させる。

縁故資本主義における窮屈な競争

 

 

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